Distinctively Atayal geometric patterns give clothes and accessories a
modern look.
花嫁装束や、男性の衣装とセットになった煙草入れなどに凝らされたタイヤル独特
の紋様を、現代的に発展させた洋服も魅力的だ。
ユマ・タル(
Yuma Taru
)も、ここ泰安郷でうまれた。「ユ
マ」はタイヤル語でキスを意味する。
20
年前に公務員を辞め
てタイヤル族の布地の研究をはじめ、
2011
年に公開され先住
民族文化に対する台湾社会の理解を高めた映画「セデック・
バレ」の衣装を担当。現在は同じくタイヤル族の夫と共に、
泰安郷にある象鼻という小さな村でスタジオを守る。
伝統と現代が融けあう織物の未来
29
歳からタイヤル織物の研究を始めたユマは台湾中のタイヤ
ル族の村を訪ねて回り、各地の伝統的な技法や意匠を採集す
るのに
10
年を費した。同じ部族でも村によってデザインは少
しずつ異なる。それらを産みだす技術を保存しているのは、
どこも年配の女性のみだった。
「このままではタイヤル織物が絶えてしまう」
危機感を持ったユマは、故郷に戻って祖母や伯母たちに教
えを請い、自ら織物を学び始めた。習得後は、近くの村の女
性を集め、自宅や近くの小学校で教えながら衣服の制作を開
始。自身の経験をもとに地域ごとの特色や技法をまとめた本
を出版し、今年、台湾の人間国宝に認定された。
いま取り組んでいるのは伝統衣装の再現のほか、アートや
ファッションの世界にタイヤルがかつて用いた天然染の布や
糸・技法・意匠を取り入れること。タイヤル織物の多様性を
伝えるため、世界各地で開かれる展覧会に出品するなど忙し
く日々を送るユマの目には、勇敢でゆるぎのない、タイヤル
の霊魂のような光が宿る。